ワイヤー矯正後の保定期間とは?
ワイヤー矯正治療を終えた患者さんから、「これでやっと装置から解放される!」という声をよく耳にします。
しかし、矯正装置を外した後こそが、美しい歯並びを維持するための重要な時期なのです。この時期を「保定期間」と呼び、リテーナーという保定装置を使用して歯の位置を安定させます。
保定期間は一般的に2〜3年程度が目安とされていますが、これは最低限の期間と考えてください。実は、歯を動かす治療をした期間と同程度、あるいはそれ以上の保定期間が必要になることが多いのです。たとえば、矯正治療に2年かかった場合、保定期間も最低2年は必要になります。
私が日々の臨床で実感するのは、保定期間の重要性を十分に理解している患者さんとそうでない患者さんでは、数年後の歯並びに大きな差が出るということです。せっかく時間とコストをかけて整えた歯並びを維持するために、保定期間について正しく理解しておきましょう。

後戻りが起こるメカニズムと防止の必要性
なぜ歯が後戻りするのでしょうか?
矯正治療によって歯を動かすと、歯の周りの骨や歯周組織が新しい位置に適応するまでに時間がかかります。矯正装置を外した直後は、歯を支える骨がまだ完全に形成されておらず、歯周靭帯も伸展した状態にあります。この伸展した歯周靭帯はゴムのような働きをして、歯を元の位置に戻そうとする力を発揮するのです。
特に矯正治療終了直後から半年〜1年の間は、後戻りが最も起こりやすい時期です。この期間は歯根や歯周組織が新しい位置に慣れる過渡期であり、リテーナーの装着を怠ると後戻りのリスクが高まります。一般的な後戻り発生率は10〜30%程度とされていますが、装着時間が十分でない場合はリスクがさらに増します。
後戻りを引き起こす主な要因
後戻りには、生物学的な要因だけでなく、日常生活の習慣も大きく関わっています。舌で歯を押す癖や口呼吸などの習慣がある方は、より後戻りのリスクが高まります。また、歯ぎしりや食いしばり、頬杖をつく癖、片側だけで噛む癖なども、歯並びに悪影響を及ぼす要因です。
特に歯ぎしりは、無意識のうちに強い力を歯に加えるため、歯並びが再びズレる原因になります。さらに、舌で歯を押す癖(舌突出癖)も要注意です。これは、会話や飲み込みの際に舌が前方に出る癖で、前歯の後戻りを引き起こすことがあります。
加齢による変化も見逃せません。年齢を重ねるにつれて、歯を支える骨が減少したり、奥歯がすり減ったりすることで、噛み合わせが変化します。これにより歯並びが少しずつ変わっていくことがあるのです。
リテーナーの種類と特徴
リテーナーには大きく分けて「取り外し式」と「固定式」の2種類があります。それぞれに特徴があり、患者さんの状態や生活スタイルに合わせて最適なものを選択します。
取り外し式リテーナー
自分で着脱できるタイプのリテーナーです。主に3種類があります。
マウスピースタイプ(クリアリテーナー)は、透明なプラスチック素材で作られたマウスピース型のリテーナーです。目立ちにくく審美性に優れているため、特に大人の患者さんに人気があります。歯全体にフィットするデザインで、均等に力をかけることで歯並びの安定を図ります。取り外しができるため、食事や歯磨きの際に外して使うことができ、口腔ケアがしやすい点も魅力です。
プレートタイプ(ベックタイプ・ホーレータイプ)は、歯の表側にワイヤーを、裏側にプラスチックのプレートを取り付けたタイプのリテーナーです。ベックタイプは歯全体をワイヤーで囲み、ホーレータイプは特に後戻りしやすい前歯部分をしっかり固定する設計になっています。耐久性に優れ、長期間使用できるのが特徴です。
固定式リテーナー
歯の裏側にワイヤーを接着して固定するタイプのリテーナーです。フィックスタイプリテーナーやリンガルリテーナーとも呼ばれます。
自分で取り外すことができないため、装着忘れの心配がなく、24時間体制で歯の位置を保持できます。特に前歯の後戻りが起こりやすい方に適しています。装置自体が小さく目立たないため、審美的にも優れていますが、ワイヤーが接着された部分は歯磨きがしづらいため、清掃に工夫が必要です。
リテーナーの正しい装着時間と期間
リテーナーの効果を最大限に発揮するためには、正しい使い方と適切な装着期間を守ることが重要です。
装着期間の目安
矯正治療が終わり約1年間は、食事と歯磨きの時以外はリテーナーを装着していただきます。この時期は1日20時間以上の装着が必要です。歯の位置が徐々に馴染んできたら、担当の歯科医師と相談しながら装着時間を減らしていきます。
保定開始後1年を過ぎると、夜間のみの装着に切り替えることができる場合が多いです。ただし、これはあくまで目安であり、患者さんの状態によって個人差があります。歯並びが安定してきたと歯科医師が判断すれば、夜間だけの装着に切り替えるなど、1日の装着時間を減らすことができます。
長期的な装着の重要性
歯は加齢などの原因により、一生動き続けます。たとえば毎日の食事や歯ぎしり、食いしばりなどの癖で徐々に歯がすり減ると、咬み合わせが変わることがあります。さらに、歯そのものだけでなく、顎の骨や歯茎の状態が変化することによっても歯並びは変わります。
歯を支える顎の骨量は、全身の骨と同じように加齢によって減少します。また歯茎が痩せ細ることも、歯並びや咬み合わせを変化させる原因になります。このように、歯はさまざまな要因で動き続けるため、歯科医師から指示のあった保定治療期間が終わった後も、可能な限りリテーナーを装着するのがおすすめです。
本来であれば、一生装着し続けるのが理想です。長期的にリテーナーを装着し、整った歯並びを維持するようにしましょう。

保定期間中の注意点とケア方法
リテーナーの装着時間を守る
最も重要なのは、指示された装着時間を守ることです。「装着が面倒になった」「忘れてしまった」という理由で装着時間が不足し、後戻りが進んでしまうケースをよく見かけます。リテーナーの装着は、美しい歯並びを維持するための最も重要な習慣なのです。
リテーナーをさぼったり、歯科医師から言われた装着時間を守らなかったりすると、歯が元の位置に戻ろうとする「後戻り」のリスクが高まります。特に、矯正歯科治療を終えた直後は歯の根を支える骨が安定しておらず、歯が動きやすい状態になっているため注意が必要です。
口腔ケアの徹底
虫歯や歯周病などの口内トラブルは、歯や歯茎の健康状態に影響を与えます。炎症によって歯が不安定になり、後戻りのリスクが高まることがあるのです。また、口内トラブルによる痛みや腫れがあると、リテーナーの装着が苦痛になり、装着時間が不足してしまうこともあります。日々の丁寧な歯磨きとプロによるクリーニングで、口内環境を清潔に保ちましょう。
リテーナーを清潔に保つ
取り外しができるリテーナーは、外した後、流水でよくすすいでください。特に朝起きてすぐのリテーナーは、日中よりも唾液が多くついていますので、よくすすぐようにしてください。歯ブラシに歯磨き粉をつけて軽く磨いていただいても構いません。その際も、よく流水ですすぐようにしてください。
定期的な歯科医院でのチェック
保定期間は3か月から6か月に1回の経過観察を行う場合が多く、経過観察では、歯並びと咬み合わせのチェックと口腔内の歯石や着色をとるクリーニングなどを行います。後戻りがなければ夜だけでOKなことも多く、徐々に装着時間は減らせます。

後戻りが起きてしまった場合の対処法
保定期間中に後戻りが起きてしまった場合、悪化する前に現在通院中の医療機関とご相談ください。
後戻りを防ぐため、歯が安定するまで必ず保定装置を使用しなければなりません。矯正歯科治療が完了した後でも、歯並びや咬み合わせは変化します。親知らずが生えてくること、むし歯や歯周病が起こったり、加齢、その他身体の変化で歯並び、咬み合わせが悪い方へ変化することがあります。また、口呼吸、噛み締め、頬杖などの日常の癖や顎の成長が残っている場合でもその原因になることがあります。
早期発見の重要性
後戻りは徐々に進んでいくため「歯並びが戻っているかも?」と気づいた時にはかなり進行していることも。リテーナーをしっかり装着していれば仮に後戻りしてしまったとしても、リテーナーがきつくなったり、合わなくなったりすることで歯並びのズレに早めに気づくことができます。
後戻りが起こると、リテーナーが合わなくなったり、装着時に痛みを感じたりするなどのトラブルが起こる恐れがあります。後戻りが大きく、それまで使用していたリテーナーが装着できなければリテーナーの再製作が必要となることはもちろん、歯並びの状態によっては再矯正が必要になるケースもあります。
再治療の検討
まずは、なぜ後戻りが起きてしまったのか、注意できる点があるのか、現在の担当医にご相談されてはいかがでしょうか。また、状況が改善しない場合には、再治療が必要となる場合もありますので、その場合は今後の治療の仕方や対処法、その費用につきましてもご相談なさってください。
まとめ:美しい歯並びを維持するために
ワイヤー矯正後の保定期間は、美しい歯並びを維持するために非常に重要な時期です。一般的には2〜3年程度の保定期間が必要ですが、理想的には一生涯にわたってリテーナーを装着し続けることが推奨されます。
保定装置には、きれいに整った歯並びおよびしっかりとした咬み合わせを後戻りから守る大切な役割があります。きれいな歯並びを維持するために、もうしばらく頑張りましょう。
当院では、患者さん一人ひとりの状態に合わせた最適な保定計画をご提案しています。矯正治療からむし歯、歯周病、歯の色のお悩み、お子様のお口の健康まで、何でも気軽にご相談ください。皆様が自信を持って笑える健康で美しい口元の実現を目指し、全力でサポートいたします。
詳しい保定期間やリテーナーの種類、装着方法については、Belle歯科・矯正歯科までお気軽にご相談ください。日本矯正歯科学会認定医としての専門的な知識と経験を活かして、患者様にご満足いただける治療を行います。

著者情報
Belle歯科・矯正歯科 院長 竹内優斗
[経歴]
日本矯正歯科学会 認定医
近畿東海矯正歯科学会
インビザライン プラチナプロバイダー
兵庫県歯科医師会
神戸市歯科医師会
神戸市西区歯科医師会

