マウスピース矯正を始めたら「喋りにくい」と感じていませんか?
マウスピース矯正を始めたばかりの患者様から、よくこんな声を聞きます。
「装着したら急に喋りにくくなって、仕事の会議で困った」「サ行やタ行が上手く発音できない」「周りに聞き返されることが増えた」……こうした違和感は、決して珍しいことではありません。
実は、マウスピース矯正による発音への影響は、多くの方が経験する一時的な症状です。
Belle歯科・矯正歯科で日々患者様と向き合う中で、この「発音の違和感」についてのご相談は非常に多く、皆様が同じような不安を抱えていらっしゃることを実感しています。この記事では、マウスピース矯正で発音が変わる原因、違和感の正体、そして慣れるまでの期間について、矯正歯科の専門医として詳しく解説していきます。

なぜマウスピース矯正で発音が変わるのか?その3つの原因
マウスピースが舌の動きを制限する
発音において、舌は極めて重要な役割を果たしています。
マウスピースを装着すると、歯全体が薄いプラスチック製の装置で覆われるため、舌が通常触れる場所の感覚が変化します。特に「サ行」「タ行」「ラ行」などの発音は、舌先を上顎の前歯裏側や歯茎に付けて発音する音です。マウスピースという「新しい環境」が加わることで、この繊細な接触が阻害され、発音が不明瞭になりやすいのです。
舌は非常に敏感な器官で、わずか0.1mmの違いも感じ取ることができます。
そのため、厚さ約0.5〜0.8mmのマウスピースであっても、舌にとっては大きな変化として認識されるのです。
口腔内の空間が変化することによる影響
発音には口腔内の「空間」も重要な役割を果たしています。声は喉から出て、口腔内の空間で共鳴し、最終的に言葉として発せられます。マウスピース矯正中は、この共鳴空間にも変化が生じるのです。
上下の歯の間に約0.5〜0.8mmの厚みが追加されることで、歯と唇、歯と頬の間のスペースが変化します。
特に「サ行」「シ行」などの摩擦音は、息が狭い隙間を通過する時に生じる音です。マウスピースによってこの隙間の形状や大きさが変わると、発音に影響が出やすくなります。また、唇の動きにも微妙な変化が生じ、「マ行」「パ行」「バ行」などの両唇音の発音にも影響を与えることがあります。
歯の移動による噛み合わせの変化
マウスピース矯正では、歯が徐々に移動していきます。
歯の移動によって、噛み合わせや舌の位置が変化し、発音が変化することがあります。特に、前歯の移動は、発音に大きな影響を与える可能性があります。現在の歯並びよりも少しずらして作られたマウスピースを装着することで、歯に力がかかり、締め付けられるような感じがすることもあります。
この状態では、噛み合わせが高く感じたり、違和感が出たりすることもあるでしょう。
マウスピース矯正で特に発音しにくくなる音とは?
舌先音:「タ行」「ダ行」「ナ行」「ラ行」
これらの音は、舌先を上顎の前歯裏側(歯茎)に付けて発音する音です。
マウスピースがあることで、舌先の接触位置が変化し、発音が不明瞭になりやすい傾向があります。特に「た」「だ」「ら」「な」などは、舌の細かい動きや位置によって音が作られるため、マウスピースに慣れるまで発音しづらいと感じることが多いのです。
摩擦音:「サ行」「シュ」「ショ」など
摩擦音は、息が狭い隙間を通過する時に生じる音です。
マウスピースによって気流の通り道が変化すると、これらの音に影響が出やすくなります。口腔内装置による音響特性の変化は主に高周波数帯域で顕著に現れるとされており、「サ行」「シ行」などの子音に特に影響があることが知られています。
両唇音:「マ行」「パ行」「バ行」
唇の動きは「マ行」「パ行」「バ行」などの両唇音の発音に重要です。
マウスピースがあることで唇の閉じ方や力の入れ具合が変わり、これらの音も影響を受けることがあります。ただし、舌先音や摩擦音に比べると、影響は比較的軽度であることが多いです。
違和感に慣れるまでの期間はどのくらい?
多くの方は1〜2週間で改善を実感
マウスピース矯正による発音の違和感は、個人差が大きいものの、一般的には数日から2週間程度で改善が見られることが多いです。
Belle歯科・矯正歯科で治療を受けられた患者様の多くも、「最初は辛かったけれど、2週間ほどで慣れた」と語っています。
初めてマウスピースを装着した時や、新しいマウスピースに移行した時には、歯に力がかかっている状態のため、違和感が出やすくなります。しかし、こうした違和感や痛みは、通常ずっと続くわけではありません。脳と舌はこの新しい環境に適応し始め、徐々に発音が改善していきます。
慣れるまでの期間に個人差がある理由
歯並びの状態、マウスピースへの適応力、日常的に話す頻度などによって、慣れるまでの期間は異なります。
仕事で頻繁に話す方は、練習の機会が多いため、比較的早く慣れる傾向があります。一方で、あまり話す機会がない方は、慣れるまでに時間がかかることもあります。また、口の中の感覚は非常に敏感なため、マウスピースを「異物」と脳が判断してしまい、嘔吐反射が起きてしまう方もいらっしゃいます。
矯正終了後も滑舌が悪いまま残ることはあるのか?
基本的にありません。
マウスピース矯正が終了すれば、装置を外した状態になるため、発音は元に戻ります。むしろ、歯並びが改善されることで、発音がしやすくなる場合もあります。矯正治療の目標は、美しい歯並びだけでなく、機能的にも優れた口腔環境を実現することです。
発音の違和感を軽減するための具体的な方法
発音練習で舌の筋肉を鍛える
矯正による滑舌の悪化は、発音練習によって改善できる可能性があります。
発音練習は、舌の筋肉を鍛え、滑舌を改善する効果が期待できます。舌を動かす体操を取り入れることで、舌の筋肉を鍛えるのに効果的です。例えば、舌を左右に動かしたり、舌を上顎につけたり、舌を前に突き出したりする体操などがあります。
また、新聞や本を声に出して読むことも効果的です。
発音しにくい単語を繰り返し練習することで、マウスピースを装着した状態での発音に慣れていきます。口の開き方が制限される場合があるため、意識的に口を大きく開けて話す練習をすることも大切です。
ゆっくりと丁寧に話すことを意識する
マウスピース矯正器具によって発音がしにくい「サ行」や「タ行」などの発音は、意識してゆっくりと発音する練習をすることが重要です。
焦らず、一音一音を丁寧に発音することで、徐々に慣れていきます。
装着時間を守りながら短時間から慣らす
初めてマウスピースを装着する際は、短時間から始めて徐々に装着時間を延ばしていく方法もあります。
ただし、マウスピース矯正の効果を得るためには、1日20〜22時間の装着が推奨されています。自己判断で装着時間を短くすると、治療計画がズレてしまい、矯正が計画通りに進まない原因になります。装着時間を守ることは、矯正治療の成功に不可欠です。
周囲に理解と協力を得る
矯正中は、周囲に理解と協力を得ることが大切です。
聞き取りにくい場合は遠慮せずに聞き返してもらいましょう。矯正中の苦労を理解してもらうことで、周囲の理解とサポートを得ることができ、精神的なストレスを軽減することができます。職業で会話が多い方は、仕事前に練習時間を確保したり、大事な会話や発表時には一時的に外す選択も可能ですが、装着時間管理が重要です。

こんな時は歯科医に相談を!注意すべきサイン
1週間以上経っても違和感が改善しない場合
多くの場合、数日から1週間ほどでマウスピースに慣れてしまいますが、1週間以上経っても違和感が改善しない時は、歯科医へ相談しましょう。
マウスピースが合っていなかったり、正しく装着できていない可能性があります。
強い痛みや締めつけ感が続く場合
新しいマウスピースに移行したばかりの頃は、歯に力がかかるため、締め付けられるような感じがすることもあります。
しかし、強い痛みが続く場合や、ずっと締めつけられている感じが続いている時は、治療計画の見直しが必要な可能性があります。無理に我慢せず、担当の歯科医に相談することをおすすめします。
歯茎にマウスピースが当たって痛い場合
マウスピース矯正では歯列全体を覆うため、マウスピースの縁が歯茎に当たってしまうことがあります。
その結果、違和感だけでなく痛みの原因になってしまうことも。マウスピースの縁が歯茎に当たっている場合には、歯科医院で縁を削ってもらうという対処法があります。専門的な技術が必要なため、絶対に自分で削るなどの処置はしないようにしましょう。
まとめ:マウスピース矯正の発音への影響は一時的なもの
マウスピース矯正で発音が変わることは、決して珍しいことではありません。
多くの方が経験する一時的な症状であり、適切な方法で克服できるものです。舌の動きの制限、口腔内空間の変化、歯の移動による影響など、発音が変わる原因は明確です。そして、ほとんどの場合、1〜2週間程度で違和感は改善していきます。
発音練習を取り入れたり、ゆっくりと丁寧に話すことを意識したりすることで、より早く慣れることができます。
Belle歯科・矯正歯科では、日本矯正歯科学会認定医として、患者様一人ひとりの状態に合わせた丁寧なサポートを提供しています。マウスピース矯正中の発音の違和感についても、遠慮なくご相談ください。矯正治療は、美しい歯並びを手に入れるだけでなく、長期的なお口の健康を保つための大切な一歩です。
一時的な違和感を乗り越えて、理想の笑顔を手に入れましょう。
マウスピース矯正について詳しく知りたい方、発音の違和感についてご相談されたい方は、ぜひBelle歯科・矯正歯科までお気軽にお問い合わせください。神戸市西区の西神南に位置する当院では、最前線の現場で身につけた矯正治療の知見と、お口全体を診る1口腔単位の歯科治療を組み合わせ、患者様の未来を見据えた総合的な治療を提供しています。

著者情報
Belle歯科・矯正歯科 院長 竹内優斗
[経歴]
日本矯正歯科学会 認定医
近畿東海矯正歯科学会
インビザライン プラチナプロバイダー
兵庫県歯科医師会
神戸市歯科医師会
神戸市西区歯科医師会

