入れ歯からインプラントへ~高齢者の新しい選択肢
入れ歯を長年使用されている方の中には、「もっとしっかり噛めるようになりたい」「見た目を気にせず話したい」という思いを抱えている方が少なくありません。
特に神戸市西区を含む地域では、高齢化が進む中で、お口の健康と生活の質の維持が重要なテーマとなっています。インプラント治療は、入れ歯に代わる選択肢として注目されていますが、「高齢だから無理では?」「持病があるけど大丈夫?」といった不安の声も多く聞かれます。
実は、適切な条件が整えば、高齢の方でも安全にインプラント治療を受けることが可能です。
本記事では、日本矯正歯科学会認定医として、また大阪大学歯学部附属病院での臨床経験を活かし、高齢者の方が入れ歯からインプラントへ安全に移行するための具体的な方法と注意点について、詳しく解説していきます。

高齢者がインプラント治療を検討する理由
入れ歯からインプラントへの移行を考える高齢者の方には、共通した悩みがあります。
部分入れ歯を使用している方からは、「しっかり噛めるようになりたい」という声が年々増えています。入れ歯は、天然歯と比較すると咀嚼力が低下しやすく、硬いものを避けがちになります。その結果、食事の楽しみが減少し、栄養バランスにも影響が出ることがあります。
また、「見た目を気にせず話したい」というニーズも重要です。部分入れ歯の金属バネが見えることに抵抗を感じる方は多く、人前で話すことに消極的になってしまうケースもあります。インプラントは、見た目が自然で、他人に気づかれにくいという大きなメリットがあります。
さらに、入れ歯特有の「ずれる」「外れる」といった不快感から解放されたいという希望も強いです。
インプラントは顎の骨にしっかりと固定されるため、入れ歯のような不安定さがなく、自分の歯のような感覚で食事や会話を楽しむことができます。こうした生活の質の向上は、高齢者の方にとって非常に大きな価値があると考えられます。
インプラントと入れ歯の違い~機能面での比較
インプラントと入れ歯の最も大きな違いは、咀嚼力にあります。インプラントは顎の骨に直接固定されるため、天然歯に近い咀嚼力を回復できます。一方、入れ歯は歯茎の上に乗せる形になるため、咀嚼力は天然歯の約30~40%程度にとどまると言われています。
また、装着感にも大きな差があります。インプラントは固定式のため、ずれたり外れたりする心配がなく、違和感も少ないです。入れ歯は取り外し式で、慣れるまでに時間がかかることがあり、特に初めて使用する方は違和感を強く感じることがあります。
さらに、周囲の歯への影響も考慮すべき点です。部分入れ歯は、残っている歯にバネをかけて固定するため、支えとなる歯に負担がかかります。長期的には、その歯が弱ってしまうリスクもあります。インプラントは独立して機能するため、他の歯に負担をかけることがありません。
生活の質(QOL)向上への期待
インプラント治療による生活の質の向上は、単に「よく噛める」ということだけではありません。
食事の楽しみが増えることで、栄養状態が改善され、全身の健康維持にもつながります。特に高齢者にとって、しっかりと噛んで食べることは、誤嚥性肺炎の予防や認知機能の維持にも関係していると考えられています。
また、見た目の改善により、社交的な活動への参加意欲が高まることもあります。人前で笑顔を見せることに自信が持てるようになり、外出や趣味の活動が増えることで、精神的な健康にも良い影響を与えます。
このように、インプラント治療は、お口の機能回復だけでなく、高齢者の方の人生全体の質を向上させる可能性を持っているのです。
高齢者のインプラント治療における注意点
高齢者の方がインプラント治療を受ける際には、いくつかの重要な注意点があります。
最も多い懸念の一つが、「高血圧だとインプラントはできないのでは?」という疑問です。結論から申し上げると、これは誤解です。正しくは、「コントロールされていない重度の高血圧」の場合は、治療を延期すべきということになります。
高血圧とインプラント治療の関係
インプラント治療は外科手術を伴うため、血圧の管理が非常に重要です。血圧が高い状態のまま手術を行うと、手術中の出血量が増えるリスクがあります。血圧が高いということは、血管の壁に常に強い圧力がかかっている状態であり、歯茎を切開したり骨を削ったりする際に、通常よりも出血しやすくなります。
また、局所麻酔薬に含まれる血管収縮剤(エピネフリン)が血圧をさらに上昇させる可能性があります。これにより、脳卒中や心筋梗塞といった重篤な偶発症のリスクが高まる恐れがあります。
しかし、かかりつけの内科医の指導のもと、降圧剤などで血圧が安定した数値に保たれている場合は、インプラント治療を受けることが可能です。日本高血圧学会のガイドラインでは、診察室での血圧が140/90mmHg未満を正常範囲の目安としており、インプラント手術を行う上でも、この基準を下回っていることが一つの目安となります。
糖尿病とインプラント治療
糖尿病も、インプラント治療において注意が必要な持病の一つです。歯周病は糖尿病の合併症の一つとされており、糖尿病の方は歯周病にかかりやすく、また歯周病が悪化すると糖尿病の症状も悪化するという相互関係があります。
インプラント治療においても、血糖値のコントロールが重要です。血糖値が高い状態では、傷の治りが遅くなり、感染症のリスクが高まります。インプラントと骨の結合(オッセオインテグレーション)にも悪影響を及ぼす可能性があります。
しかし、適切な血糖管理がなされていれば、糖尿病の方でもインプラント治療を受けることは可能です。HbA1c値(過去1~2ヶ月の血糖コントロール状態を示す指標)が7.0%未満であることが一つの目安とされています。治療前には、かかりつけの内科医と連携し、現在の状態で歯科の外科処置を受けても問題ないかを確認することが大切です。
骨の状態と骨造成の必要性
高齢者の方の場合、長期間の入れ歯使用や歯周病により、顎の骨が痩せてしまっていることがあります。インプラントを埋め込むには、十分な骨の量と質が必要です。骨が不足している場合は、「骨造成」という処置が必要になることがあります。
骨造成には、自家骨移植や人工骨材料を使用する方法などがあります。上顎の奥歯の位置では、上顎洞という空洞があるため、骨が不足しやすく、「サイナスリフト」という特殊な骨造成手術が必要になることもあります。
骨造成を行う場合、治療期間が長くなり、費用も増加しますが、適切な骨の土台を作ることで、インプラントの長期的な成功率を高めることができます。
安全なインプラント治療のための医科歯科連携
高齢者の方が安全にインプラント治療を受けるためには、歯科医院と内科医との連携が不可欠です。
当院では、患者様の全身状態を正確に把握するため、治療前のカウンセリングや問診で、現在の病状、服用されている薬、過去の病歴などを詳しくお伺いしています。高血圧や糖尿病などの持病がある場合は、かかりつけの内科医に「現在の状態で歯科の外科処置を受けても問題ないか」という確認を取ることをお願いしています。
治療前の全身状態評価
インプラント手術を安全に行うためには、患者様の全身状態を正確に評価することが重要です。当院では、手術当日にも血圧測定を行い、その日の体調を確認します。緊張により血圧が一時的に上昇することもあるため、リラックスできる環境を整え、必要に応じて複数回測定を行います。
また、服用されている薬についても詳しく確認します。特に、血液をサラサラにする抗凝固薬や抗血小板薬を服用されている場合は、出血のリスクが高まるため、内科医と相談の上、休薬の必要性を判断します。ただし、自己判断での休薬は危険ですので、必ず医師の指示に従っていただきます。
手術中のモニタリング体制
当院では、インプラント手術中の安全を確保するため、血圧や脈拍、酸素飽和度などをリアルタイムでモニタリングする体制を整えています。万が一、手術中に血圧の急上昇や体調の変化があった場合でも、迅速に対応できるよう、スタッフ全員が緊急時の対応訓練を受けています。
また、局所麻酔薬の使用量や種類についても、患者様の全身状態に応じて慎重に選択します。血管収縮剤の含有量を調整したり、必要に応じて血管収縮剤を含まない麻酔薬を使用したりすることで、血圧への影響を最小限に抑えます。
術後のフォローアップ
インプラント手術後も、定期的なフォローアップが重要です。手術直後は、出血や腫れ、痛みなどの症状が出ることがありますが、これらは通常、数日から1週間程度で落ち着きます。しかし、高齢者の方や持病をお持ちの方は、回復に時間がかかることもあります。
当院では、術後の経過を丁寧に観察し、異常があればすぐに対応できる体制を整えています。また、かかりつけの内科医とも連携し、全身状態の変化がないかを確認します。
インプラント治療の長期的な成功のために
インプラント治療は、手術が終わったら終了というわけではありません。長期的に良好な状態を維持するためには、日々のセルフケアと定期的なメンテナンスが不可欠です。
インプラント周囲炎のリスクと予防
インプラントの最大のリスクの一つが「インプラント周囲炎」です。これは、インプラントの周りの歯茎が炎症を起こし、最終的には顎の骨を溶かしてしまう病気で、いわばインプラントの歯周病です。
インプラントには、天然の歯と違い、歯と歯茎の境目にある「歯根膜」という防御機構が存在しません。そのため、磨き残しによる歯垢(プラーク)が付着すると、細菌が侵入しやすく、炎症を起こしやすくなります。初期段階では自覚症状がほとんどなく、静かに進行するため、気づいた時には重症化していることもあります。
インプラント周囲炎を予防するためには、毎日の丁寧な歯磨きが最も重要です。特に、インプラントと歯茎の境目、隣接する歯との間などは、汚れが溜まりやすいため、歯間ブラシやフロスを使用して、丁寧に清掃する必要があります。
定期的なメンテナンスの重要性
セルフケアだけでは、すべての汚れを完全に除去することは困難です。そのため、歯科医院での定期的なプロフェッショナルケア(メンテナンス)が必要です。
当院では、インプラント治療を受けられた患者様に対して、3~6ヶ月ごとの定期メンテナンスをお勧めしています。メンテナンスでは、インプラント周囲の歯茎の状態をチェックし、専用の器具を使用して、セルフケアでは取り切れない汚れや歯石を除去します。また、噛み合わせの確認や、上部構造(人工歯)の緩みや破損がないかも確認します。
将来的な介護が必要になった場合の対策
高齢者の方がインプラント治療を受ける際に考慮すべき重要な点の一つが、「将来、介護が必要になった場合、インプラントはどうなるのか?」という問題です。
もし、将来的にセルフケアが困難な状態になった場合、インプラント周囲炎のリスクは飛躍的に高まります。ご家族や介護士の方によるケアが必要になりますが、インプラントの清掃には専門的な知識や技術が求められるため、十分なケアが行き届かないケースも少なくありません。
このような事態に備え、現代の歯科医療では「訪問歯科診療」という体制が整っています。歯科医師や歯科衛生士がご自宅や施設に伺い、専門的なクリーニングやメンテナンスを行うことができます。将来、通院が困難になったとしても、このような社会資源を活用することで、インプラント周囲炎のリスクを管理することは可能です。
また、万が一、インプラントの維持が困難になった場合、入れ歯に切り替えることも選択肢の一つです。インプラントを除去し、その部分に入れ歯を装着することは可能ですが、長期間インプラントを使用していた場合、顎の骨の状態によっては、入れ歯の安定性が低下することもあります。そのため、インプラント治療を受ける際には、将来的なリスクも含めて、十分に理解しておくことが大切です。

Belle歯科・矯正歯科でのインプラント治療
当院では、最前線の現場で身につけた矯正治療の知見と、お口全体を診る1口腔単位の歯科治療を組み合わせることで、患者様のお口の健康、ひいては生活の質の維持・向上を目指しております。
インプラント治療においても、単に失った歯を補うだけでなく、10年後、20年後を見据えた総合的な治療計画をご提案しています。患者様との「お話の時間」を大切にし、治療に対するご理解を深めていただくことで、安心して治療を受けていただける環境を整えています。
院内併設の歯科技工室による精密な製作
当院には、院内に歯科技工室を併設しており、インプラントの上部構造(人工歯)を精密かつ迅速に作製することが可能です。歯科技工士が直接患者様のお口の状態を確認しながら製作できるため、より自然で機能的な人工歯を提供できます。
また、万が一、上部構造に不具合が生じた場合でも、院内で迅速に修理や調整を行うことができるため、患者様の負担を最小限に抑えることができます。
予防歯科を専門に学んだ歯科医師によるサポート
当院には、予防歯科を専門的に学んだ医師が在籍しており、インプラント治療後のメンテナンスにも力を入れています。インプラント周囲炎の予防には、専門的なクリーニングと、患者様ご自身のセルフケアの質を高めることが重要です。
当院では、患者様一人ひとりのお口の状態に合わせた、オーダーメイドのケア方法をご提案し、健康なお口を維持するための全力サポートを行っています。
神戸市西区西神南からのアクセス
当院は、神戸市営地下鉄西神南駅から徒歩10分の場所に位置し、駐車場も4台完備しております。西神中央、伊川谷、学園都市を含む広範囲のエリアから、多くの患者様にご来院いただいております。
診療時間は、月・火・水・金曜日が9:00~12:30、14:00~18:00、土曜日が9:30~13:00、14:00~17:00となっており、木曜・日曜・祝日は休診です。完全予約制となっておりますので、事前にお電話またはWEBでご予約をお願いいたします。
まとめ~高齢者のインプラント治療は可能です
高齢だから、持病があるから、という理由だけで、インプラント治療を諦める必要はありません。
適切な全身管理と、歯科医院と内科医との連携により、多くの高齢者の方が安全にインプラント治療を受けられています。入れ歯からインプラントへの移行は、咀嚼力の回復、見た目の改善、そして生活の質の向上につながる、非常に有意義な選択肢です。
ただし、インプラント治療は手術を伴うため、リスクもゼロではありません。治療前には、ご自身の全身状態を正確に把握し、かかりつけの内科医と十分に相談することが大切です。また、治療後も、日々のセルフケアと定期的なメンテナンスを継続することで、インプラントを長期的に良好な状態で維持することができます。
将来的に介護が必要になった場合の対策も含め、長期的な視点で治療計画を立てることが、成功への鍵となります。当院では、患者様の10年後、20年後を見据えた総合的な治療をご提案し、皆様が自信を持って笑える健康で美しい口元の実現を目指しております。
インプラント治療についてご不安やご質問がある方は、ぜひ一度ご相談ください。患者様一人ひとりのお悩みに寄り添い、最適な治療方法をご提案いたします。
詳細はこちら:Belle歯科・矯正歯科

著者情報
Belle歯科・矯正歯科 院長 竹内優斗
[経歴]
日本矯正歯科学会 認定医
近畿東海矯正歯科学会
インビザライン プラチナプロバイダー
兵庫県歯科医師会
神戸市歯科医師会
神戸市西区歯科医師会

