顎関節症とは?その症状と原因
「口を開けるとカクカク音がする」「顎が痛くて硬いものが噛めない」「大きく口を開けられない」・・・こうした症状に悩まされていませんか?
これらは「顎関節症」の代表的な症状です。顎関節症は、耳の穴から約2cm前方に位置する顎関節や、その周辺の筋肉に痛みや不快感を引き起こす疾患のことを指します。
顎関節症は決して珍しい病気ではありません。日本人の10%以上が顎関節症にかかっているとされ、特に20代から50代の女性に多く見られるのが特徴です。軽度であれば自然に治る可能性もありますが、症状が続くと日常生活に支障をきたすため、適切な対処が必要になります。
顎関節症の原因は一つに絞ることができず、複数の要因が組み合わさって発症する「多因子性の疾患」だと考えられています。主な原因としては、以下のようなものが挙げられます。
- TCH(上下歯列接触癖)・・・口を閉じている時に上下の歯が常に触れる癖
- 歯ぎしりや食いしばり
- 精神的なストレスや緊張
- 頬杖をつく、片方の歯だけで噛むなどの悪習慣
- 猫背などの姿勢の問題
- 外傷
- 特定のスポーツや楽器演奏
特に注目すべきは「TCH(上下歯列接触癖)」です。
緊張を強いられる際や、猫背でスマホやPCの画面を見る際に、無意識に上下の歯が接触することがあります。無意識のうちに上下の歯の接触が繰り返されて負担が蓄積されると、顎関節症を発症するのです。顎関節症の患者さまの多くにTCHがあることから、顎関節症の最大の要因と考えられています。

顎関節症と噛み合わせの関係性
「噛み合わせが悪いから顎関節症になったのでは?」と考える方が多くいらっしゃいます。
確かに、顎関節症と歯並びは密接に関連しています。歯並びや噛み合わせが悪い場合、噛む力のバランスが崩れ、左右どちらかで噛む癖がつきやすくなります。また、歯並びや噛み合わせが悪いと、上下の歯を常に接触させるTCHや歯ぎしり・食いしばりをする可能性が高まるため、顎関節に負担をかけやすくなるのです。
しかし、ここで重要な事実があります。
「噛み合わせが悪い人は必ず顎関節症になる」わけではなく、「顎関節症になった人は皆、噛み合わせが悪い」わけでもありません。噛み合わせが悪くても顎関節症でない人は大勢いますし、逆にとてもキレイな歯並びで噛み合わせも申し分ないのに顎関節症になっている人も大勢いらっしゃいます。
実際、統計的に不正咬合(正常でない噛み合わせ)の男女比率差がないにもかかわらず、顎関節症には若い女性の比率が高いという事実があります。また、一般的には年齢とともに歯周病で歯を失ったり、歯を支える組織が弱くなったりして噛み合わせに問題が起こることが多いのですが、顎関節症は若い女性に多く発症します。
これらのことから、「噛み合わせが悪い⇔顎関節症」という直接的な因果関係は成り立たないことが明らかです。
ただし、悪い咬み合わせが顎関節症の「補助的な原因」である可能性は十分にあります。不適切な虫歯治療や矯正治療が引き金となって、顎関節症にかかりやすくなる可能性も否定できません。
矯正治療で改善が期待できるケース
では、どのような場合に矯正治療で顎関節症の改善が期待できるのでしょうか?
歯列矯正で歯の噛み合わせを整えれば、顎関節にかかる負担を減らすことができ、顎関節症の症状も改善できる可能性があります。歯列矯正で歯並びが改善されると上下の歯が均等に接触するため、特定の歯や顎関節、周囲の筋肉への負担を軽減できるのです。
特に以下のような状態の方は、矯正治療による改善が期待できます。
- 明らかな不正咬合(出っ歯、受け口、開咬など)がある
- 左右の噛み合わせのバランスが悪い
- 特定の歯に過度な負担がかかっている
- 噛み合わせの問題により、片側だけで噛む癖がついている
矯正治療を行うことで、噛む力が均等に分散され、顎関節への過度な負担が軽減されます。その結果、顎関節症の症状が改善する可能性があるのです。
ただし、重要なポイントがあります。
顎関節症の症状が強く現れている状態では、すぐに矯正治療を始められないことがあります。開口障害(口を大きく開けられない状態)がある場合や、下顎の位置のズレが大きい場合、歯ぎしり・食いしばりが強い場合などは、まず顎関節症の症状を安定化させてから矯正治療を始めた方が良い結果が得られやすくなります。

矯正治療で改善できないケース
一方で、矯正治療だけでは顎関節症を改善できないケースも存在します。
噛み合わせが悪い人が必ず顎関節症になるわけではないように、噛み合わせが整っている方でも顎関節症になることがあります。顎関節症の原因が歯並びや噛み合わせ以外にある場合、歯列矯正だけでは改善できません。
以下のような場合は、矯正治療だけでは改善が難しい可能性があります。
- 精神的なストレスや緊張が主な原因となっている場合
- TCH(上下歯列接触癖)が強く習慣化している場合
- 姿勢の問題(猫背など)が主な原因となっている場合
- 顎関節の構造的な問題がある場合
- 関節円板のずれが大きい場合
これらのケースでは、矯正治療よりも先に、スプリント療法(マウスピース)、薬物療法、理学療法、行動療法などの保存的治療が推奨されます。
また、現在では国際的に「顎関節症の症状改善を目的とした矯正治療」は推奨されていません。アメリカの矯正歯科学会(AAO)は、矯正治療の内容や結果に関わらず「矯正治療が顎関節症に影響を及ぼすという根拠は無い」と公式に発表しています。
つまり、矯正治療は顎関節症に害はないものの、顎関節症の治療を主目的として矯正治療を行うべきではないということです。

顎関節症の適切な治療アプローチ
では、顎関節症はどのように治療すべきなのでしょうか?
現在、国際的に推奨されている顎関節症の治療は、「負担の少ない保存療法から始める」というアプローチです。2010年に米国歯科研究学会(AADR)が発表した「顎関節症の基本治療の原則」では、「顎関節症の基本治療は、患者さま自身の癖や精神的なストレスからくる問題のある行動に原因がある。そのため行動認知療法や理学療法、マウスピースなどを主体とした保存的な治療が原則である」とされています。
具体的な治療法としては、以下のようなものがあります。
スプリント療法(マウスピース)
夜間に装着する透明なマウスピース(スプリント)によって、歯ぎしりや食いしばりによる顎関節への過剰な圧力を分散させ、筋肉の緊張を緩和します。顎関節や筋肉への負担を軽減し、噛み合わせの安定化を図るのが主な目的です。
薬物療法
痛みが強い時期には、消炎鎮痛薬や筋弛緩薬を服用する薬物療法が用いられます。痛みを緩和して、顎関節の過度な緊張を取り除き、他の治療法の効果を高める対症療法です。
理学療法
顎関節や周囲の筋肉の状態を改善する治療法です。急性の痛みや炎症が強い場合は冷罨法、痛みが和らいだ後は温罨法やマッサージ、開口訓練などを行います。
行動療法(生活習慣の改善)
顎に負担をかける習慣や動作を見直し、修正する行動療法は、顎関節症の治療に不可欠です。TCHを意識して減らすだけで顎関節症が改善する方が多いことから、日常生活での意識改善が重要です。
多くの方は、マウスピースや日中の食いしばり等の癖を止めることを指導することで、2週間程度で改善していきます。ただし、経過が数ヶ月以上続く場合などは、より専門的な対応が必要となる場合があります。

Belle歯科・矯正歯科での顎関節症治療と矯正治療
Belle歯科・矯正歯科では、顎関節症と矯正治療の関係性を正しく理解した上で、患者さま一人ひとりに最適な治療計画をご提案しています。
日本矯正歯科学会認定医として、豊富な知識と経験を活かしながら、まず顎関節症の症状をマウスピースなどで改善した後に、患者さまのご希望や医学的メリットなどを総合的に考慮した上で、矯正治療をご提案しております。
当院では、患者さまとの「お話の時間」を大切にし、治療に対する理解を促進しています。顎関節症の症状、原因、そして最適な治療アプローチについて、丁寧にご説明いたします。
また、院内に歯科技工室を併設しているため、マウスピースや矯正装置などの製作物を精密かつ迅速に作製することが可能です。患者さまの10年後、20年後を見据えた「未来を見据えた総合治療」をご提案し、長期的なお口の健康をサポートいたします。
顎関節症でお悩みの方、矯正治療をお考えの方は、ぜひ一度ご相談ください。最前線の現場で身につけた矯正治療の知見と、お口全体を診る1口腔単位の歯科治療を組み合わせることで、患者さまのお口の健康、ひいては生活の質(クオリティ・オブ・ライフ)の維持・向上を目指します。
顎関節症と噛み合わせの関係を正しく理解し、適切な治療を受けることで、快適な日常生活を取り戻しましょう。詳しい治療内容やご相談は、Belle歯科・矯正歯科までお気軽にお問い合わせください。

著者情報
Belle歯科・矯正歯科 院長 竹内優斗
[経歴]
日本矯正歯科学会 認定医
近畿東海矯正歯科学会
インビザライン プラチナプロバイダー
兵庫県歯科医師会
神戸市歯科医師会
神戸市西区歯科医師会

